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地上権・借地権消滅時の所有権移転登記の方法と注意点

地上権や借地権という権利をご存知でしょうか。
土地の所有者ではない人が、その土地の上に建物を建てたり、特定の目的のために土地を使ったりできる強力な権利です。
しかし、これらの権利は永遠に続くわけではありません。
期間が満了したり、様々な事情で消滅したりすることがあります。
権利が消滅したとき、土地の所有権は元の所有者に戻りますが、ここで非常に重要になるのが「所有権移転登記」です。
この登記手続きを怠ると、後々思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
地上権・借地権消滅時の所有権移転登記の方法と注意点について、分かりやすく解説していきます。
この情報が、あなたの不動産に関する不安を解消する一助となれば幸いです。

目次

地上権・借地権消滅時に所有権移転登記が必要になる理由

地上権や借地権が設定された土地は、登記簿謄本にもその旨が記載されています。
これは、その土地には所有者以外の第三者が利用できる権利が存在することを公示するためです。
この権利が期間満了やその他の原因で消滅した場合、土地の利用権は所有者に戻ります。
しかし、登記簿上はまだ地上権や借地権が存在するかのように記載が残っている状態になります。
この登記上の不一致を解消し、土地の所有権が完全に所有者に戻ったことを公的に明らかにするために、所有権移転登記(正確には、地上権・借地権の抹消登記とセットで行われることが一般的ですが、ここでは所有権が完全に所有者に戻るという意味合いで所有権移転に関連する手続きとして説明します)や、より正確には消滅した権利の抹消登記が必要となります。

登記の持つ意味と重要性

不動産登記は、土地や建物の物理的な状況や権利関係を公的に記録・管理する制度です。
特に権利に関する登記は、誰がその不動産の所有者であるか、どのような権利(抵当権、地上権、借地権など)が設定されているかなどを第三者に対して明確に示し、取引の安全を確保する役割を果たします。
地上権や借地権が消滅したにも関わらず、登記簿上にその権利が残っている状態は、真実の権利状態と登記が一致しない「登記の不実」にあたります。
このような状態を放置しておくと、将来その土地を売却しようとした際に、買主が登記簿を見て権利が残っていると誤解し、取引が進まなかったり、権利関係を巡ってトラブルが発生したりするリスクが高まります。
土地の所有権が完全に自分のものであることを公に示すためには、消滅した地上権や借地権の登記を抹消し、所有権がクリアな状態であることを登記簿上で明らかにする手続きが不可欠なのです。

地上権・借地権が消滅する主なケース

地上権や借地権が消滅する原因は一つだけではありません。
最も一般的なのは、設定された期間が満了することです。
借地借家法では、借地権の存続期間は原則として30年以上と定められており、この期間が満了すれば借地権は消滅します。
ただし、期間満了時に建物が存在し、借地権者が契約更新を希望する場合は、正当事由がない限り更新されるのが原則であり、単純に期間満了で消滅するわけではないケースも多くあります。
次に、当事者間の合意によって契約を解除することです。
借地権者が土地を不要になった場合や、土地所有者が土地を利用したい場合などに、両者の話し合いによって借地契約を合意解除することがあります。
また、借地権者が土地所有者から土地を買い取った場合など、借地権者が土地の所有権を取得し、借地権と所有権が同一人物に帰属する「混同」によって消滅することもあります。
その他、特約による解除、債務不履行による解除、土地の滅失など、様々な原因で地上権や借地権は消滅し得ます。
これらの消滅原因に応じて、その後の登記手続きに必要な書類や手続きの詳細が異なる場合があります。

消滅登記と所有権移転登記、その関係とは

地上権や借地権が消滅した場合に行われるのは、厳密には「地上権抹消登記」や「借地権抹消登記」です。
これにより、登記簿上から地上権や借地権の記録が削除され、土地の所有権が制約のない状態に戻ったことが公示されます。
では、「所有権移転登記」という言葉がなぜ使われるのでしょうか。
これは、地上権や借地権が設定されている状態を、土地の所有権から利用権能の一部が切り離されている状態と捉え、その利用権能が消滅することで、完全な所有権が所有者に戻る、という広義の意味合いで使われることがあります。
特に、借地権者が土地を買い取った(借地権者が所有者になる)ケースでは、借地権者が土地の所有権を取得するための「所有権移転登記」と、借地権が混同によって消滅したことによる「借地権抹消登記」が同時に申請されることになります。
したがって、「地上権・借地権消滅時の所有権移転登記」という言葉は、消滅した権利の抹消登記を含む、所有権が完全に所有者に戻るための一連の登記手続き全体を指していると理解するのが適切でしょう。
どちらにしても、権利が消滅した事実を登記簿に反映させる手続きが不可欠であることに変わりはありません。

消滅時の所有権移転登記手続きの具体的な流れ

地上権や借地権が消滅した際の登記手続きは、一般的に以下の流れで進められます。
まず、権利が消滅したことを証明する書類を準備します。
期間満了であれば契約書や更新拒絶の通知、合意解除であれば合意解除証書、混同であれば売買契約書などです。
次に、これらの書類を基に登記申請書を作成します。
申請書には、不動産の表示、登記の目的(地上権抹消、借地権抹消など)、登記原因とその日付、申請人(原則として登記権利者と登記義務者の共同申請)、添付書類などを記載します。
作成した申請書と必要書類を、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。
法務局の登記官が提出された書類を確認し、問題がなければ登記が実行され、登記簿に反映されます。
手続きが完了すると、登記識別情報通知(登記済証に代わるもの)などが発行されます。

申請に必要な書類を漏れなく準備する

登記申請には多くの書類が必要となります。
まず、登記申請書そのものが必要です。
次に、登記原因証明情報として、地上権や借地権が消滅した原因を証明する書類が求められます。
例えば、期間満了であれば契約書の写しや期間満了を証する書面、合意解除であれば解除合意書、混同であれば土地の売買契約書や所有権移転登記済証などです。
これらの書類には、権利が消滅した旨と日付が明確に記載されている必要があります。
また、登記義務者(通常は地上権者や借地権者)の登記識別情報通知(または登記済証)が必要です。
これは、登記義務者本人の意思に基づいた申請であることを確認するために用いられます。
さらに、登記義務者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)、登記権利者(通常は土地所有者)の住民票(法人の場合は登記事項証明書)なども必要になります。
もし登記義務者が法人の場合は、法人の登記事項証明書や代表者の資格証明書なども必要になります。
これらの書類に不備があると、申請が却下されたり補正を求められたりして、手続きが遅れてしまうため、事前に法務局や専門家(司法書士)に確認し、漏れなく準備することが重要です。

登記申請書の作成と法務局への提出

登記申請書は、法務局のホームページから様式をダウンロードできるほか、市販の書籍などを参考に作成することも可能です。
申請書には、対象となる不動産の情報(所在、地番、地目、地積など)を正確に記載する必要があります。
不動産の情報は、固定資産税の課税明細書や登記簿謄本(登記事項証明書)で確認できます。
登記の目的欄には「地上権抹消」や「借地権抹消」と記載し、登記原因欄には「〇年〇月〇日期間満了」「〇年〇月〇日合意解除」「〇年〇月〇日混同」などと、消滅原因とその日付を記載します。
申請人として、登記権利者(土地所有者)と登記義務者(地上権者・借地権者)の氏名、住所、連絡先などを記載し、それぞれが実印を押印します。
添付書類の目録も作成し、申請書に綴じ込みます。
申請書が完成したら、必要書類一式とともに、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。
提出は窓口に持参するほか、郵送やオンライン申請も可能です。
オンライン申請は手続きがスムーズに進む場合もありますが、事前の準備や専用ソフトが必要になります。
法務局に提出する前に、記載内容や添付書類に間違いがないか、複数回確認することが大切です。

登記手続きにかかる費用とその内訳

地上権や借地権の消滅に伴う登記手続きには、いくつかの費用がかかります。
主な費用は、登録免許税と、専門家である司法書士に依頼した場合の司法書士報酬です。
登録免許税は、登記の種類や不動産の価額などに応じて法律で定められています。
地上権や借地権の抹消登記の場合、不動産1個につき1,000円(土地1筆、建物1棟を1個と数えます)と定められています。
例えば、土地1筆に設定された借地権を抹消する場合、登録免許税は1,000円となります。
もし土地が複数筆に分かれている場合は、筆数に応じて税額が増えます。
混同を原因とする所有権移転登記と借地権抹消登記を同時に申請する場合は、所有権移転登記に対する登録免許税(固定資産評価額の20/1000など)と抹消登記に対する登録免許税がそれぞれかかります。
司法書士に登記手続きを依頼する場合、その報酬は司法書士事務所によって異なりますが、一般的には数万円から十数万円程度が目安となります。
報酬額は、手続きの複雑さ、必要な書類の数、不動産の個数などによって変動します。
その他、登記簿謄本や住民票などの取得費用、郵送費用などの実費もかかります。
費用の全体像を把握し、誰がどの費用を負担するのかを当事者間で明確にしておくことが、後のトラブルを防ぐ上で重要です。

登記申請時に特に注意すべき点

地上権や借地権が消滅し、その登記手続きを行う際には、いくつかの重要な注意点があります。
これらの点を見落とすと、手続きが滞ったり、予期せぬ問題が発生したりする可能性があります。
特に、借地契約において建物が存在する場合の取り扱いや、消滅に伴って発生する税金の問題、そして土地が共有名義である場合など、ケースによって考慮すべき点が異なります。
これらの注意点を事前に理解しておくことで、スムーズかつトラブルなく登記手続きを進めることができます。

建物に関する取り決めと建物買取請求権

借地契約の場合、土地上に借地権者名義の建物が存在することがほとんどです。
借地権が期間満了や合意解除などで消滅する際、原則として借地権者は建物を収去して土地を原状回復し、土地所有者に返還する義務を負います。
しかし、借地借家法には借地権者を保護するための建物買取請求権という制度があります。
これは、期間満了の場合などに、借地権者が土地所有者に対し、建物を時価で買い取るよう請求できる権利です。
この買取請求権が行使されると、土地所有者と借地権者との間で建物の売買が成立したものとみなされます。
建物買取請求権が行使された場合、借地権者は建物を収去する必要がなくなり、建物の所有権は土地所有者に移転します。
この場合、土地の借地権抹消登記に加えて、建物の所有権移転登記も必要になります。
建物買取請求権の行使の有無や、建物の取り壊し・売買に関する取り決めは、登記手続きの内容に大きく影響するため、当事者間で十分に話し合い、合意内容を明確にしておくことが極めて重要です。

消滅に伴う税金の影響

地上権や借地権の消滅は、税金にも影響を与える場合があります。
最も関連性が高いのは、借地権者が土地所有者に土地を返還する際に建物が存在し、土地所有者がその建物を買い取る場合です。
この場合、借地権者には建物を売却したことによる譲渡所得税が発生する可能性があります。
建物の取得費や譲渡費用を差し引いた利益に対して課税されます。
一方、土地所有者が建物を買い取った場合、不動産取得税が課税される可能性があります。
不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ課税される地方税です。
また、土地所有者が、借地権の消滅に伴って土地の利用上の制約がなくなったことによる価値増加とみなされ、贈与税が課税されるケースが過去に問題になったこともありますが、一般的な期間満了による返還では通常発生しません。
しかし、無償で借地権を返還する場合など、経済的な利益の移転があったとみなされるケースでは、贈与税や所得税が発生する可能性もゼロではありません。
税務上の取り扱いはケースバイケースであり、複雑な場合が多いため、登記手続きを進める際には、事前に税理士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることを強くお勧めします。

共有名義や相続が絡む場合の考慮事項

土地の所有者が複数人の共有名義であったり、地上権者や借地権者が亡くなり相続が発生していたりする場合、登記手続きはさらに複雑になります。
共有名義の土地の場合、原則として共有者全員が登記権利者として申請に参加する必要があります。
共有者のうち一部の者が申請に参加しない場合、その持分については登記ができないことがあります。
また、地上権者や借地権者が亡くなっている場合、その権利は相続人に承継されます。
この場合、まず相続人への地上権・借地権の移転登記(相続登記)を行った上で、その相続人が登記義務者として消滅登記の申請に参加する必要があります。
相続人が複数いる場合は、相続人全員が申請に参加するのが原則ですが、遺産分割協議が成立している場合は、協議によって権利を取得した者が単独で申請できることもあります。
相続登記が未了のまま放置されていると、消滅登記の手続きを進めることができません。
共有関係や相続関係が複雑な場合は、関係者間の調整や追加の書類が必要になることが多く、手続きに時間がかかる傾向があります。
このようなケースでは、司法書士に相談し、適切な手続きのアドバイスを受けることが不可欠です。

まとめ

地上権や借地権が消滅した際には、土地の所有権を明確にするために、消滅した権利の抹消登記を含む一連の登記手続きが非常に重要です。
登記簿上の記録を真実の権利状態に合致させることで、将来の不動産取引におけるトラブルを防ぎ、土地の所有権を完全に主張できるようになります。
登記手続きは、消滅原因に応じた書類の準備から始まり、登記申請書の作成、法務局への提出、登録免許税などの費用の支払いといった流れで進みます。
特に、借地契約における建物の取り扱いや建物買取請求権の行使、消滅に伴う税金の問題、そして共有名義や相続が絡む場合の複雑さなど、注意すべき点は多岐にわたります。
これらの注意点を理解し、適切に対応することが、スムーズな手続き完了の鍵となります。
手続きに不安がある場合や、ケースが複雑な場合は、不動産登記の専門家である司法書士に相談することをお勧めします。
専門家のアドバイスを得ることで、法的なリスクを回避し、安心して手続きを進めることができるでしょう。
地上権や借地権の消滅は、土地の所有権を巡る重要な節目です。
適切な登記手続きを行い、あなたの権利を守りましょう。

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