建物の用途を変更しようと考えたとき、「登記」という言葉を耳にして、少し難しそうだなと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
特に、住まいを店舗にしたり、事務所を民泊施設にしたりと、建物の使い道を大きく変える際には、法的な手続きが必要となることがあります。
この手続きの一つに「用途変更登記」があります。
建物の登記簿に記載されている「種類」と、実際の使い道が異なってしまうと、将来的に様々な不都合が生じる可能性もゼロではありません。
この記事では、これから建物の用途変更を検討されているあなたが、用途変更登記使用目的変更時の具体的な手続き方法について、一つずつ理解し、スムーズに進めるための情報をお届けします。
専門的な知識がなくても分かりやすいように、必要な手続きや注意点、費用などについて詳しく解説していきますので、ぜひ最後までお読みください。
建物の用途変更登記とは?必要になるケースと不要なケース
建物の用途変更登記は、その建物がどのように使われているかを公的に示す登記簿の内容を、現状に合わせて変更する手続きです。
不動産登記簿には、その建物の所在や構造、床面積など様々な情報が記録されていますが、その中に「種類」という項目があります。
この「種類」欄に記載されている内容は、建物の主たる用途を示しており、例えば「居宅」「店舗」「事務所」「工場」「倉庫」といった言葉が使われます。
建物を建築した際には、その建てられた目的や設計に基づいてこの「種類」が定められ、登記簿に記載されます。
しかし、建物の所有者が変わったり、社会情勢の変化に伴って、当初の目的とは異なる使い方をしたいと考えるケースが出てきます。
例えば、それまで住まいとして使っていた建物をカフェとして営業したい、あるいは事務所として使っていたフロアをフィットネスジムに改装したい、といった場合です。
このような、登記簿に記載された「種類」とは異なる用途で建物を継続的に使用する場合に必要となるのが、用途変更登記なのです。
用途変更登記は、建物の実際の用途と登記簿上の記録を一致させるために行われる手続きであり、不動産の正確な情報を保つ上で非常に重要な意味を持ちます。
登記簿上の「建物の種類」と「用途変更」の定義
不動産登記法において、建物の登記簿に記載される「種類」は、その建物の利用目的を明確にするためのものです。
これは、建築基準法における「用途地域」や「単体規定」などとも関連しており、建物の安全や周辺環境に配慮するための基礎情報となります。
例えば、「居宅」であれば人が居住するための構造や設備が想定され、「店舗」であれば不特定多数の人が出入りするための構造や防火設備などが考慮されるのが一般的です。
この登記簿上の「種類」を変更することを「用途変更登記」と呼びます。
これは、建物の物理的な構造に変更を伴うかどうかに関わらず、主たる使用目的が変わる場合に申請が必要となります。
ただし、建築基準法上の「用途変更」とは少し意味合いが異なる場合があるため注意が必要です。
建築基準法では、特定の規模(例えば床面積100㎡超)の建築物において、政令で定める類似の用途相互間での変更を除く用途変更を行う場合に、建築確認申請が必要となります。
一方、不動産登記法上の用途変更登記は、規模に関わらず、登記簿上の「種類」と実際の用途が異なる状態を解消するために行われます。
したがって、建築基準法上の確認申請が不要な用途変更であっても、登記簿上の「種類」と実際の用途が異なる場合は、用途変更登記が必要になることがあるのです。
この二つの手続きは連動していることも多いため、用途変更を検討する際には、両方の視点から確認することが大切です。
用途変更登記が必要になる具体的な事例
建物の用途変更登記が必要になるのは、登記簿上の「種類」と異なる目的で、建物を継続的に使用する場合です。
具体的な事例をいくつか挙げてみましょう。
最も分かりやすいのは、それまで「居宅」として使っていた建物を、店舗や事務所、あるいは民泊施設として活用する場合です。
例えば、一戸建ての家を改装してパン屋さんを開業する場合、登記簿の「種類」を「居宅」から「店舗」に変更する用途変更登記が必要になります。
また、マンションの一室を「事務所」として登記していたが、これを賃貸して「居宅」として利用する場合も、同様に用途変更登記が必要となります。
さらに、倉庫として使っていた建物をアトリエやイベントスペースとして利用する場合や、工場の一部を展示場として一般公開する場合なども、登記簿上の種類(倉庫、工場など)と実際の用途(事務所、店舗など)が異なるため、用途変更登記の対象となる可能性があります。
特に、不特定多数の人が出入りするような用途(店舗、事務所、集会所、旅館など)への変更は、建築基準法上の手続きも関連してくることが多いため、注意が必要です。
登記簿と現況の用途が異なる状態を放置すると、不動産の取引時や融資を受ける際などに問題が生じる可能性があるため、用途変更を行った際には速やかに登記手続きを行うことが推奨されます。
登記が不要なケースとその判断基準
建物の用途を変更した場合でも、必ずしも用途変更登記が必要になるわけではありません。
登記が不要となるケースを知っておくことも重要です。
まず、一時的な利用目的の変更であれば、登記は不要と判断されることが一般的です。
例えば、空き家を短期間だけイベントスペースとして貸し出す、といったケースです。
これは、主たる用途が変更されたとはみなされず、登記簿上の種類はそのままで問題ありません。
また、登記簿上の「種類」に影響を与えない程度の軽微な用途変更も、登記不要となる場合があります。
例えば、「居宅」の一部をSOHO(Small Office/Home Office)として利用する場合などです。
この場合、建物の主たる用途は依然として「居宅」であり、事務所としての利用は従たる用途に過ぎないため、通常は用途変更登記は不要です。
さらに、登記簿上の「種類」が漠然とした表現で記載されている場合や、複数の用途が併記されている場合なども、判断基準が異なります。
例えば、「店舗・居宅」と記載されている建物を、店舗部分のみの利用に変更した場合などです。
重要な判断基準となるのは、「建物の主たる用途が、登記簿に記載された内容から継続的に変更されたか」という点です。
判断に迷う場合は、管轄の法務局に相談するか、専門家である土地家屋調査士や司法書士に確認することをお勧めします。
自己判断で登記が不要と決めつけてしまうと、後々問題になる可能性もあるため、慎重な判断が必要です。
用途変更登記の具体的な申請手続きと必要書類
建物の用途変更登記を行うためには、いくつかのステップを踏む必要があります。
まずは、用途変更登記が必要かどうかを正確に判断し、必要であれば手続きの準備に入ります。
手続きは、原則として建物の所有者またはその代理人が行います。
具体的な申請手続きは、主に必要書類の準備、登記申請書の作成、そして法務局への申請という流れで進みます。
これらの手続きを自分で行うことも可能ですが、専門的な知識や書類作成の技術が必要となる場合が多く、特に建物図面や各階平面図の作成は専門家である土地家屋調査士の業務となります。
自分で手続きを進める場合は、法務局のホームページで公開されている登記申請書の様式や記載例を参考にしたり、法務局の相談窓口を利用したりすることができます。
しかし、書類に不備があると申請が受け付けられなかったり、補正を求められたりして、手続きに時間がかかってしまう可能性があります。
スムーズかつ正確に手続きを進めるためには、事前にしっかりと準備を進めることが非常に重要です。
必要となる書類の種類は、用途変更の内容や建物の状況によって異なりますが、一般的に必要とされる書類は決まっていますので、漏れなく準備することが求められます。
申請書類の準備と作成方法
用途変更登記を申請する際に必要となる主な書類は以下の通りです。
まず、「登記申請書」が必要です。
これは法務局のホームページからダウンロードできる様式に、必要事項を記載します。
記載する内容は、建物の表示(所在、家屋番号、種類など)、登記の目的(種類変更)、登記の原因とその日付(例えば「令和○年○月○日用途変更」)、申請人(所有者)、添付書類などです。
次に、「登記原因証明情報」が必要です。
これは、なぜ用途変更の登記が必要になったのかを証明する書類です。
具体的には、建物の用途を変更した事実がわかる書類、例えば改装工事の請負契約書や、新たな用途での使用を開始したことを示す書類などが該当する場合があります。
最も重要な添付書類の一つに「建物図面」と「各階平面図」があります。
これらの図面は、建物の形状や配置、各階の間取りや求積根拠などを正確に示すもので、原則として現況に合わせて作成する必要があります。
特に、用途変更に伴って間取りに変更があった場合や、増築・改築を行っている場合は、既存の図面が使えないため、新たに作成しなければなりません。
これらの図面作成は、土地家屋調査士の専門業務です。
その他、申請人が所有者本人であることを確認するための「印鑑証明書」や、「代理権限証明情報(委任状)」が必要となる場合もあります。
これらの書類は、法務局に提出する公的な書類であり、正確な記載と形式が求められるため、不備がないように慎重に準備することが不可欠です。
法務局への申請から完了までの手続き
必要な書類が全て揃ったら、いよいよ法務局へ申請を行います。
申請は、建物の所在地を管轄する法務局に対して行います。
申請方法としては、法務局の窓口に直接持参する方法、郵送する方法、そしてオンライン申請システムを利用する方法があります。
オンライン申請は、時間や場所を選ばずに申請できるメリットがありますが、事前の準備や専用ソフトの導入が必要となります。
窓口申請や郵送申請の場合は、書類に不備がないか最終確認を行い、必要に応じて登録免許税分の収入印紙を貼付して提出します。
登録免許税は、用途変更登記の場合、建物1個につき1,000円です。
申請後、法務局の登記官が提出された書類の内容を審査します。
審査の過程で、書類に軽微な不備があった場合は、法務局から連絡があり、補正を求められることがあります。
補正は、指定された期間内に法務局に出向いて行うのが一般的です。
書類に重大な不備があったり、補正に応じなかったりした場合は、申請が却下されてしまうこともあります。
審査が無事に完了し、登記が実行されると、登記簿の記載が新しい内容に更新されます。
登記が完了したことの証明として、「登記完了証」が交付されます。
また、希望すれば「登記識別情報通知」を受け取ることも可能です。
申請から登記完了までの期間は、法務局の混雑状況や申請内容によって異なりますが、一般的には1週間から2週間程度かかることが多いようです。
複雑な案件や補正が必要な場合は、さらに時間がかかることもあります。
用途変更登記にかかる費用、期間、そして専門家への依頼
用途変更登記にかかる費用は、自分で手続きを行う場合と専門家に依頼する場合とで大きく異なります。
自分で手続きを行う場合は、実費として登録免許税と、必要に応じて図面作成にかかる費用(自分で作成できない場合)などが主にかかります。
一方、専門家である司法書士や土地家屋調査士に依頼する場合は、これらの実費に加えて専門家への報酬が必要となります。
また、手続きにかかる期間についても、自分で書類作成から申請までを行う場合は、慣れていないために多くの時間を要する可能性がありますが、専門家に依頼すればスムーズに進めてもらえることが期待できます。
費用と期間、そして手続きの確実性を考慮して、自分で手続きを行うか、専門家に依頼するかを検討することが大切です。
特に、建物図面や各階平面図の作成が必要な場合や、手続きが複雑なケースでは、専門家への依頼を検討する価値は大きいと言えるでしょう。
自分で手続きする場合の費用と専門家への依頼費用
自分で用途変更登記の手続きを行う場合の費用は、主に登録免許税の1,000円(建物1個あたり)と、必要書類の準備にかかる実費です。
例えば、印鑑証明書の発行手数料や、法務局で図面をコピーする場合の費用などです。
もし、建物図面や各階平面図を自分で作成できない場合や、既存の図面が現況と異なるために修正や新規作成が必要な場合は、土地家屋調査士に図面作成のみを依頼することも可能です。
この場合の費用は、建物の規模や形状、図面作成の難易度によって異なりますが、数万円から十数万円程度が目安となることが多いようです。
一方、登記申請手続き全体を専門家に依頼する場合は、司法書士や土地家屋調査士に依頼することになります。
一般的に、建物に関する登記手続きは土地家屋調査士の専門分野ですが、所有権に関する登記(例えば売買や相続)とセットで行う場合などは司法書士が担当することもあります。
用途変更登記の場合、通常は土地家屋調査士に依頼することが多いでしょう。
専門家への報酬額は、事務所によって異なりますが、一般的には5万円から15万円程度が目安となることが多いようです。
ただし、建物の状況が複雑な場合や、事前の調査に手間がかかる場合は、これ以上の費用がかかることもあります。
自分で手続きを行うことで費用は抑えられますが、時間と手間がかかること、書類の不備によって手続きが滞るリスクがあることを考慮する必要があります。
申請から登記完了までの期間の目安
用途変更登記の申請から登記完了までの期間は、いくつかの要因によって変動します。
最も大きな要因は、申請先の法務局の混雑状況です。
登記申請件数が多い時期や法務局によっては、審査に時間がかかることがあります。
また、申請書類の内容にも左右されます。
提出された書類に不備がなく、内容も明確であれば、比較的短期間で審査が進みます。
しかし、書類に不備があったり、登記官から追加の確認や補正を求められたりすると、その分だけ期間が延びてしまいます。
さらに、登記簿上の情報と現況に大きな違いがある場合や、過去の登記に遡って確認が必要な場合など、複雑な案件では審査に時間がかかる傾向があります。
一般的に、用途変更登記の申請から完了までにかかる期間は、おおよそ1週間から2週間程度を見ておくと良いでしょう。
ただし、これはあくまで目安であり、ゴールデンウィークやお盆休み、年末年始などの長期休暇を挟む場合は、さらに時間がかかる可能性があります。
また、建築基準法上の確認申請が同時に必要な場合、その手続きの進捗も登記の完了時期に影響を与えることがあります。
急ぎで登記を完了させたい場合は、事前に法務局に相談したり、手続きに慣れた専門家に依頼したりすることを検討するのが賢明です。
司法書士や土地家屋調査士に依頼するメリット・デメリット
用途変更登記の手続きを司法書士や土地家屋調査士のような専門家に依頼することには、明確なメリットがあります。
最大のメリットは、手続きの正確性と迅速性が期待できることです。
専門家は登記に関する法令や実務に精通しており、必要書類の漏れや記載の誤りを防ぎ、スムーズに申請を進めることができます。
特に、建物図面や各階平面図の作成は専門的な知識と技術が必要であり、土地家屋調査士に依頼することで正確な図面を作成してもらうことができます。
また、手続きにかかる時間や手間を大幅に削減できる点も大きなメリットです。
自分で手続きを行う場合、書類の準備や作成、法務局への提出などで多くの時間を費やすことになりますが、専門家に依頼すればこれらの作業を代行してもらえるため、本業や他のことに時間を充てることができます。
さらに、法務局とのやり取りや補正対応なども任せられるため、精神的な負担も軽減されます。
一方、デメリットとしては、当然ながら専門家への報酬が発生するため、費用が高くなる点が挙げられます。
自分で手続きを行えば登録免許税などの実費のみで済む場合でも、専門家に依頼すると数万円から十数万円の報酬が必要となります。
したがって、費用を最優先に考える場合は、自分で手続きを行う方が有利と言えます。
しかし、手続きの複雑さ、ご自身の時間的な制約、そして正確性を考慮すると
		
